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読書日記を感想文的に書き綴っています。「お知らせ」には日々の雑感、興味のある分野を記載しています。
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2.1(日)読了
精神病院を舞台として、さまざまな事情から入院・通院している患者たちの人間ドラマを描いている。山本周五郎賞受賞作。

帚木氏自身が現役精神科医ということもあり、患者たちの事情や病棟内の様子なども地味ながらリアルに書かれています。主人公格の人たちは軽い知的障害であったり、転換発作で母親殺し、家族殺しであったりします。
そんな「普通」ではない人たちが一所で生活しているので、秩序も何もあったもではないと思うでしょうが、そんなことはありません。奇異な行動をする人ももちろんいますが、それでもある秩序によって生活様式はなりたっているようです。

さて、この物語は一人の中学生の少女を中心に描かれているといってもいいでしょう。なぜなら、主人公格の男性――60歳前後の彼らですが――は、皆その少女に恋をしてしまうからです。正面だって好きだ! とは書かれていませんが、くどいように何度も「島崎さん」という単語が出てきます。なんとなく切なくなります。

ラストは、その少女を辱めた元暴力団員のヤク中の男を、主人公格の男性が仇討ちとして殺害します。そして裁判。殺人が悪いことは言うまでもありませんが、その心は清し、と思ってしまいます。

特に盛り上がったり、アッというどんでん返しがあるという訳ではありませんが、深い人間ドラマで読ませています。

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1.29(木)読了
明治維新前後を舞台として、維新に置き去りにされて武士たちを、武士道という観点から眺めた作品。短編6作からなっている。

時代の移り変わりに抵抗する武士の心情がよく描かれているし、身命を投げ打ってでも殿に尽くそうという気概のようなものも、ひしひしと伝わってきます。
明治初期まで仇討ちは武士の誉とされていたようで、13年も主君の仇を追い続ける男の話なども出てきます。現代では殺人は完全な”悪”とされていますが、そうとばかりも言い切れない時代が長くあったのも事実です。明治憲法の発布により仇討ちは重罪と規定されましたが、そのこと一つをとっても時代が移り変わったことを感じさせたことでしょう。

6篇すべてが高いレベルで書かれています。短編を書かせたら浅田次郎は天下一品ですね。
最初から最後まで計算ずくで作成されている感があり、無駄な箇所がほとんどないというのが素晴らしい。佳作です。

1.28(水)読了
恩田陸の処女作にして、第三回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作。
ある県立高校で語り継がれている噂がある。毎年『サヨコ』という人物を校内からひとり定め、その人物は文化祭で演劇を演じなければならない、というような内容だ。演劇が成功すれば、その年のその高校の受験結果は最良のものとなり、失敗すれば最悪のものとなる。
3年生になった春、その高校に津村沙世子という美しい女子生徒が転向してくる。その年の『サヨコ』は加藤という男子生徒だったが、なぜか津村も、『サヨコ』の証である鍵を持っている……。

ファンタジーと言えなくもありませんが、青春ホラー小説と位置づけたほうが適切でしょう。
率直な感想を述べると、おもしろくない。
三人称多視点で書かれているのですが、いきなり視点が飛んで戸惑います。誰が主人公なのかも解りづらい。致命的なのが、神の視点のように書かれた文章があちらこちらで散りばめられていることです。混乱を通り越して白けてしまいました。読者を混乱させるために、意図的に視点をバラケさせているのかとも思ったのですが、そうでもない。小説のセオリーを無視しまくっています。

もちろん、面白ければそれでいいのですが、内容的にもいまいち面白くない。
文章や会話の幼稚さ、ストーリーの稚拙さは素人と言われてもしかたがないと思います。本編と関係のない余計なシーンや会話も多くあり(50ページくらい削除したほうがいい)、読んでいてイライラする。どうしてこの作品が最終候補にまで残ったのだろう、とクエスチョンマークが頭をよぎります。

背表紙に「伝説のデビュー作」と書かれていますが、??? 駄作(ごめんなさい)だと思うのですが……。恩田さんの本とは相性が悪いのかなぁ。
1.27(火)読了
吉川英治文学新人賞作品。
大企業社長の長男坊は18歳で自殺、次男坊の主人公と母親は家を出てともに暮らし、三男坊が父の後をついで副社長となる。
次男坊は小さな衣服店で働いている。安い着切れを無料同然に仕入れ、専属デザイナーの女性に服をデザインさせて、それを地下鉄沿線の会社に売り込むという仕事だ。毎日六百数十円の地下鉄一日乗り放題切符を購入し、仕事に励む。
ある日、地下鉄の階段を上がったところで妙な光景に出くわす。店も古く、辺りの様子もおかしい。どう見ても、30年前の光景である。信じられない思いで歩いていると、30年前に自殺した兄とばったり出会う。その日は兄が自殺した日の夜だったのだ。

地下鉄を舞台に主人公とヒロインがさまざまな時代の過去へと遡り、秘められた真実と向き直ります。ラストは納得のいかない終わりかたでしたが、そこに至るまでの過程や複線は素晴らしく、浅田次郎ワールドというべきものが広がっています。

浅田氏はこの著作の後、『鉄道員(ぽっぽや)』で直木賞を受賞されています。彼にとって鉄道というのはターニングポイントなのかもしれません。
10年近く前に読んでみて、この作品がなぜ直木賞を受賞したのかわからない、という感想を抱いたのですが、今読んだらまた別の感想を持つかもしれません。機会があったら再読したいと思います。
1.26(月)読了
林真理子のエッセイ。いつもながらライト感覚で書かれています。
今回は食べ物の内容が減って、講演やモンゴル旅行に行ったことについて紙面が割かれています。
この本は1999年に書かれているのですが、妊娠したことをマスコミに書きたてられたことについて、「並みの神経ではもたない」と憤っていました。いち小説家が妊娠したことがそんなに騒ぎたてることだろうか、と不思議に思います。

それにしても、忙しいせいか、林真理子のエッセイは間違いが多いようです。「日大経済学部卒業」と書かれていた有名人が「青学法学部卒業」だったり。うろおぼえの内容をそのまま書いているのでしょうか。他人の経歴を間違えて書くって、とても失礼なことだと思う。ちょっと調べれば正確に書けることなのに。

しかしまぁ、これだけエッセイを書いていてよくネタが尽きないものだと感心します。原田宗徳のように、同じネタを何度も書くわけでもないのに。
やはり常日頃からがしがし外出して、アンテナを張り巡らせているからでしょうね。そうでなければ量産できない。感心してしまいました。
1.24(土)読了
 身元の正しい人々が集って普段人に言えない秘密を打ち明けるサロン、沙高楼。主人公は美術館の刀剣を眺めていると、昔馴染みの刀工匠に出会い、その場所に連れていかれる。そこで語られた5人の話はいずれも奇妙だった。

5人の男女がそれぞれ秘密を語り合います。計5話の短編集ともいえるでしょう。
いずれの短編もすばらしい出来で、読んでいておもわずゾッとしてしまいました。じわじわと迫ってくるホラー小説といえます。
3人目が語った「立花新兵衛只今まかり越候」、5人目のヤクザの大親分が語った「雨の夜の刺客」が特に秀逸です。前者は幻想的、後者は事実を訥々と語って、いかにもありそうな話だと思いました。

浅田次郎の作品は「シェエラザード」「蒼穹の昴」などを読んできましたが、それに勝るとも劣らないできだと思います。この人は昔、ヤクザの企業舎弟をやっていたことがあるそうで、その辺の事情も堂に入っています。お勧めの一冊です。まだの人はぜひご一読を。

1.22(木)読了
エッセイ集。
林真理子のエッセイは二十歳前後にほとんど読みましたが、最近まだ読んでいない本がたくさん出ているのに気が付きました。
久しぶりに読みましたが、軽くてなかなかおもしろい。飲食店に関するエッセイが多いのも昔からかわらないようで(この人は食べることが大好きです)、ダイエットしては食べ、太ってはダイエットをしての繰り返しのようです。

それにしても彼女は行動力がすごいですね。好奇心旺盛というか、家でじっとしていられないタイプなのかもしれません。常にいろいろな所に出かけ、いろいろな人と出会い、さまざまな体験をされている。
エッセイのネタ探しという側面もあるのかもしれないが、それにしても毎晩のように出歩くのはすごい。結婚されて8年くらい経ったのかな? 子供も生まれたという話を聞いたことがあるけど、現在はどんな生活を送っているのだろう。近年の著書も読んで真相を解明しなければ。

この本の最後には、「この国のこどもたちは」という数ページの教育論に関する文章が載っています。
読んでいて、「あー、林真理子はこんな文章も書くのだなぁ」と思いました。真面目な、と言うと失礼かもしれないが、真面目で真摯なこどもの教育に関する文章が綴られています。なんとなく感動しました。

1.21(水)読了
1970年初頭に自衛隊に所属する歩兵のドラマを描いている。
自衛隊には2つの階級があり、ひとつは襟章の星の数。もうひとつは飯(めんこ)の数、つまり勤続年数だそうです。飯の数はもちろん長ければ長いほど偉く、8年も勤め上げていれば小隊内では「神」として扱われます。

1970年代は高度経済成長時代の真っ只中で企業も人手不足で、大卒は簡単に就職できたそうです。衣食住が賄われるとはいえ月給1万5千1百円の自衛隊に就職するような人はあまりいなく、街中で若者を勧誘して飯や甘言で釣って人員確保していたようです(いまもそうだけど)。必然的に、ヤクザ者、街金での借金者など訳ありの人が多く、そのケツは自衛隊の係の者が拭くそうです。親方日の丸の強みといったところか。

9話の短編から成っていますが、とにかく下っ端は殴られます。走りが遅ければ殴られる、口答えすれば殴られる(当たり前)、極めつけは上官の機嫌が悪ければ問答無用で殴られるといったありさま。かなり悲惨ですね。
よく自衛隊に所属すれば資格をたくさんとれると言いますが、あれも嘘。と言っては言いすぎですが、取得時間がなくて、せいぜい自動車免許を取れるくらいが関の山だそうです。まぁ、長いこと勤めれいれば別でしょうが。

生の自衛隊内部が垣間見れる内容になっています。自衛隊に所属しようと思っている人は一読してみてもいいでしょう。
1.20(火)読了
漫画家の青木雄二氏が医療制度全般について語っている本。
青木氏は2003年に癌のために亡くなられ、この本が最後の著書となりました。その数年前に患った癌で入院した体験を元にこの本を執筆したそうです。

日本に限らないことですが、病院とかかわるときには必ずカネがかかります。そしてレセプトをはじめ新薬研究・承認、健康保険料などといった医療にまつわるカネを決定するのが国・厚生労働省です。当然のことながら、そこには癒着が存在する。

大学病院一つをとっても、医局制度や手術の際の謝礼金問題、ドクハラ問題、医療過誤問題などさまざまな問題があります。医療過誤などはひどいもので、患者側は医療知識などほとんどないものだから、裁判に持ち込んでも10年近くの年月と金がかかり、勝訴率も30~40%がいいところだそうです。
病院側はカルテの改竄や証拠のもみ消しをし、素人では矛盾点などを発見することは非常に難しい。
なにせ一昔前などは、医者の言うことをただ「へへぇ」と聞いて、「先生はよくやってくれました。ありがとうございました」というのがあたりまえという風潮があったそうです。そのため、医者側としてもカルテの改竄などは当然許される行為だと認識している向きもある、と青木氏は述べています。
もちろんすべてがそうであるとは思いませんが、そのような体質があるのも事実だと思います。

そのような医療「秘話」がたくさん書かれています。患者側も多少の知識は持っておいて、いざというときに馬鹿をみないように防衛することが大切でしょう。
1.18(日)読了
中国清朝末期に変法派が、科挙廃止、国会開設、立憲君主制など百を超える改革を旗印として皇帝を動かす。西太后を隠居させ、康有為や梁文秀などを中心に改革に着手するが、あまりにも急激な変革に宮廷の役人たちは反発。改革は失敗、皇帝は廃され、孤島に島流しにされ、改革派は殺害されたり外国に亡命したりする。梁文秀と康有為は亡命した。

再び政権の座に返りついた西太后。第一の側近は李春雲(春児)。西太后は老い、彼女の死後に春児に、宮殿の宝のすべてを渡すことを約束する。春児の若き日に白太太が言った予言は、糞拾いで何の望みもなく死んでいく運命だった春児を励ますための嘘であったが、春児は自分の力で「皇帝の財産のすべてを手中に収めるであろう」という予言を成就させてしまったのだ。だが、春児はそれを拒否。糞拾いの自分は西太后のおかげで死なずにすんだ、宝など欲しくはないと、運命に抗うように言った。

大作歴史小説の下巻です。
文章も内容も素晴らしいのですが、いかんせん長すぎる。2段組で410ページはお腹いっぱいになって余りある文量です。
とはいえ、冗長な箇所は特になく、最初から最後まで筋の通った作品だったと思います。

中国の歴史小説はユン・チアン著の『ワイルド・スワン』が素晴らしかったですが、この『蒼穹の昴』も勝るとも劣らない出来だと思います。好き嫌いはあると思いますが。傑作です。


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