読書日記を感想文的に書き綴っています。「お知らせ」には日々の雑感、興味のある分野を記載しています。
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9.8(火)読了
主人公の東大生、島崎国男が東京オリンピックの開会式でのダイナマイトの爆発を予告。身代金は8000万円(現在の8億円)。必死に追いかける警察と公安。逃げる主人公と同郷出身のスリの相棒。オリンピック当日の人ごみにまぎれて聖火台へと近付く島崎。もう少しのところで警察の発砲した弾が胸に命中し倒れる。東京オリンピックは無事に開会式を終えた……。 島崎国男が欲したのは金ではなく、平等な社会でした。10も年上の兄がオリンピックの建設開場 で死亡したのをきっかけに、国男はその建設現場で肉体労働に従事することにしました。東大生が肉体労働だなどと、周囲から呆れられながら始めた肉体労働は、過酷でした。日勤・夜勤は当たり前、暑いさなか奴隷のように働き続け、そして建設会社と下請け、孫請との間のどうしようもない格差。大学院でマルクス経済学を学んでいる国男でしたが、実際に現場で労働に従事して初めて、最下層の労働者の現実を目の当たりにすることになります。 最下層の労働力は国に抗うすべも知らず、日々肉体を酷使している。かたや支配者層は楽な仕事でより良い賃金を得ている。この不平等を改善するのは容易ではない。しかし国に一矢報いることはできる。それがオリンピックを人質にしての国への金の要求でした。島崎はその金を得て、貧農の家に配ってまわろうと決めていました。 読んでいて切なくなりました。島崎は頭が良く、純粋な好青年でした。ブルジョアとプロレタリアの関係に一石を投ずるべくオリンピック開場の爆破を企てましたが、それも失敗に終わり、事件自体がなかったものにされてしまいます。 国家と国民、支配者層と被支配者層、裕福の構図など、現在においてなお改善されない重大な問題へのテーゼがふんだんに盛り込まれています。ハードブック2段組で520ページという超長編ですが、読む価値はあると思います。 PR |
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