忍者ブログ
読書日記を感想文的に書き綴っています。「お知らせ」には日々の雑感、興味のある分野を記載しています。
[71] [70] [69] [68] [67] [66] [65] [64] [63] [62] [61]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

3.6(木)読了
<あらすじ>
小さな町のラテン語学校に通う10歳の主人公エーミール・シンクレールは些細な理由で悪童クローマーに脅されてしまう。深く苦しんでいたシンクレールはある日彼の町にやってきたマックス・デミアンに救われる。デミアンは彼にカインとアベルについて、そして二つの世界について語った。そして語られた二つの事は成長後のシンクレールに大きな影響と迷いを与える事となった。

今作品は第一次世界大戦後の1919年に発表され、偽名のエーミール・シンクレール作として出版されました。後にヘッセ作ということが知られ、1920年からはヘッセの名で刊行されるようになります。冒頭こそはシンクレール少年(ヘッセ)の幼少期の物語として語られており、「郷愁」「車輪の下」などと同じように、自身の少年期の憂鬱な体験をベースに書かれているように見えますが、デミアンとの関わり以降はその姿が成りを潜め、自己の追及や精神世界との関わり、というような抽象的な事象を通して物語を紡いでいます。ヘッセのそれまでの作品でみられた抒情詩的な側面は薄れ、むしろ叙事詩として作り上げられています。
旧約聖書のカインとアベルを根底の主題としており、最低限の聖書の素養がないと理解は難しいかもしません。仏教的思想や哲学的命題(特に現象学的)も散りばめられていて、ヘッセ自身の内面の思索的部分を纏め上げて形にした作品といえます。神と悪魔を超越した神アプラクサス、これはヘッセ自身が善悪の事象を纏め上げて止揚(アウフヘーベン)しようと試みた象徴ではないでしょうか。あらゆる事象は中立であり、物事に価値観を与え善悪の判断を下すのは客体の総意(創意)に過ぎない。事象をより高い次元から俯瞰すれば、善悪というあたかも相反するように思える概念も、実は単なる差異が存在しているに過ぎず、それぞれ独立した個性があるに過ぎない、といったところでしょうか。事象は超然としてただ存在しているということです。これは仏教思想、特に法華経やフッサールの現象学に通ずるところがあり、論理的整合性を重んじている点は、いかにもドイツ作家といった感があります。

思想や細かい論理に興味の無い人には読みにくい本かもしれません。一読して「あっ、自分にはあわない……」と思ったら無理に読まないほうがいいでしょう。眠れない夜には効果抜群かもしれませんが。

最後に、デミアンは怖いです。道を歩いていたら、いつの間にかスッと後ろに立ち、「やぁ」と語りかけてきます。もう少しでホラー小説になります。神秘的少年のホラー。筒井康隆に書かせたらものすごく怖そう。「ケケケケケケケ」とか言ってデミアンが走り去ったら怖い。絶対、夢にでる。
PR

コメント


コメントフォーム
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード
  Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字


トラックバック
この記事にトラックバックする:


忍者ブログ [PR]
カレンダー
12 2025/01 02
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
とし
性別:
男性
趣味:
読書、コーヒー、ジョギング
ブログ内検索
フリーエリア
最新CM
最新TB
バーコード
アクセス解析